美の創造』

 日本建築の美しさを、最も端的に表しているのはおそらく「数寄屋造り」であろう。曲がったままの原木や、皮がついたままの樹や竹などといった、普通の感覚では捨ててしまわれそうな材料を、そのありのままの姿で使うことで、古来の人は自然がもたらしてくれる安心感を、暮らしの中にも取り入れた。

数寄屋は、直線でなく、立ち前が低く、自然そのままの美しさを生かす。木を中心に、茅・檜皮・和紙・木綿・麻・絹・藁・籐・菰・竹・漆・柿渋や土、漆喰、石などの命ある素材を、匠の技によってふんだんに使い、組み合わせて造り上げる。それは、対称形の調和のとれた美しさとは一味違い、はかなげでいて力強く、アンバランスな感じさえもが美しい不調和の調和を生み出し、不思議なやすらぎを与えてくれる。命ある素材達は湿度調整機能、清浄機能、断熱性、保温性などを自ずから備えていて、そこに居る者たちの心を癒し、静寂にする。住む人は、そのものの命の優しさや温もりを感じることができる。

数寄屋造り、書院や茶室などの日本建築の美とは、その大胆さと繊細さ、緊張と緩和、陰と陽、明と暗、厳と優など、対局にあるものの混在、それらの調和と対比の美学であろう。古民家移築などもそうだが、古材を手間と暇と財をかけて用いるいわゆる“粋”な感覚は、日本人ならではの思いからであろう。数寄屋建築は、5年、10年、50年…と年数を重ねるごとに「わび」、「さび」といった味わいがでる。研ぎ澄まされた感性と技から生まれる洗練された建築が、茶室・数寄屋建築の神髄か。

木と土を組み合わせた建築、そこを風が通るように、そこに光が差し込むように。
柔らかな光、透き通る風、そんなイメージで作られてきたのが、数寄屋造りを始めとする、日本の建築の美しさではなかろうか。
建物自身が呼吸し生きているので空気が澄み、人が呼吸をするにも優しい。住まう人、訪れる人に安らぎを生み出す心配りと優れた技術は、後世に残していきたい大切な伝統・文化である。

         金子建設代表 金子勝彦

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